がんの治療は主に「手術療法」「化学療法」「放射線治療」の三大治療があります。当院では、がんの種類や進行度に基づき、患者様に最適な「標準治療*1」、「集学的治療」を行っています。
また、がんに伴う体や心の痛みを和らげる「緩和ケア」にも力をいれています。
治療方針を決めるにあたっては、各診療科医師、病理医、放射線診断医、薬剤師、がん専門看護師など多くの医療スタッフが集まる「キャンサーボード*2」で各種診断情報を検証し、各専門が力を合わせて患者様により良い治療を提供します。
近年は、一人一人の遺伝子の違いを解析し体質や病状に合わせた治療を行う「がんゲノム医療」の研究も進めています。
胃がん・大腸がん・肺がん・乳がん・肝臓がんの5大がんと腎がんは、当院と地域のかかりつけ医療機関が情報を共有し、治療後の経過や定期的な検査を行う「がん診療連携パス」の体制を築き、患者様を継続的に診療しています。
*1 標準治療とは、大規模な臨床試験によって治療効果や安全性が確認され、医学的に推奨される治療のこと
*2 キャンサーボードとは、がんの専門の医師や各医療スタッフが、がん患者の症状や治療方針を検討するためのカンファレンスのこと
手術療法とは、がんとその周囲を手術で取り除く治療方法です。
手術後の転移を防ぐために、がん周囲のリンパ節も切除します。また、原発巣(最初に発生したがん)から離れた臓器に転移する「遠隔転移」がある場合には、その転移したがんを手術で取り除くこともあります。
人間ドックで胃カメラの検査を行う人が増え、胃がんの早期発見が可能となりました。
リンパ節転移のない早期がんは、胃の内視鏡(胃カメラ)を用いて腫瘍を切除します。内視鏡を用いた治療はおもに内科で行います。
消化器外科・泌尿器科では、腹腔鏡(ふくくうきょう)手術を、胸部外科では胸腔鏡(きょうくうきょう)手術を積極的に行っています。
おなかや胸に小さな穴をあけて、腹腔鏡・胸腔鏡や細長い手術機器を挿入し、モニターに映し出した映像を見ながら手術をする方法です。開腹手術や開胸手術に比べて、傷が小さく体への負担が少ないことがメリットです。一方で、腹腔鏡や胸腔鏡手術は高度な技術を要するために、経験を積んだ医師チームが担当します。
当院では2020年より「ダビンチ手術」を開始しました。手術機器の先端に多数の関節があり、まるで人の手のように自由に動かすことができます。腹腔鏡の手術機器は直線的な動きしかできないことが弱点でしたが、ダビンチは関節が付いたことにより、さらに精緻な手術が行えるようになりました。現在は前立腺がん、胃がんと直腸がんの手術に採用しています。
当院は厚生労働省が定めた施設基準を満たしており、保険診療でダビンチ手術の治療を受けることができます。
化学療法とは、薬(抗がん剤)を用いたがんの治療方法です。
抗がん剤に対して感受性のある(効果がある)がんに用いられます。
手術や放射線が局所的な治療であるのに対して、化学療法は体の広範囲にわたって効果を発揮します。そのため、血液のがんは化学療法が中心となります。
抗がん剤治療は、手術前に使用してがんを小さくしてから切除しやすくしたり、手術後に使用してより根治(完治)に近づけたりと「集学的治療」の役割を担う場合もあります。
また、手術での切除が困難ながんに対して化学療法を行い、がんの進行を遅らせたり、症状の緩和につなげたりすることもあります。
香川労災病院ではがんの種類や進行期によって定められている標準治療に沿って治療を行い、最適な化学療法を提供しています。最新の薬剤に関しても院内ですぐ使用できる体制を整えています。また、当院は常時専任の医師、看護師または薬剤師が院内に1人以上配置されており、患者様からの緊急の相談等に、24時間対応出来る連絡体制を整備すると共に、急変等の緊急時に入院できる体制をとっております。
レジメンとは、がん薬物療法における抗がん薬、輸液、支持療法薬(抗がん薬投与に伴う副作用症状などを軽減する薬)等を組み合わせた時系列的な治療計画を指します。
レジメンは、院内のがん化学療法検討委員会に提出され、各診療科の医師に加え、薬剤師、看護師、栄養士、医療事務などの多職種により安全性や妥当性について十分に審議されております。レジメンは承認後、院内に登録されて初めて、がん薬物療法において使用することが可能になります。
当院では、最適な治療を行いつつ、患者様のQOL(生活の質)をできるだけ損なわないように外来診療を中心に治療を行っています。当院の外来化学治療室は、リクライニングチェア15台、ベッド5床を備えています。
治療時間が8時間もの長時間に及ぶ患者様もいます。そのため、安心して治療が受けられる環境を大切に考えています。治療前には看護師が問診を行い、患者様の体調や前回の副作用の状況を確認しています。隣とのあいだには仕切りを設けて患者様のプライバシーが保てるようにしています。治療中はテレビを見たり景色を眺めたりと、リラックスできるようにも配慮しています。また、トイレは、廊下や他の診療科を通る必要がないように同じ治療室内に設置しています。
放射線治療とは、体の外側からがんに放射線を当てる治療方法です。
放射線治療の役割は3つあります。1つ目は、がんを治すこと。2つ目は、手術後のがんの再発を防止すること。3つ目は、進行したがんの痛みを緩和することです。
放射線治療は手術療法と同様に局所療法ですが、手術よりも適用範囲が広く、手術が難しいがんを放射線で治療することがあります。
手術療法との大きな違いは切除せずに治療ができることです。たとえば、喉頭(こうとう)がんでは喉頭を温存でき、声を残すことができるといったメリットもあります。手術療法がよいか放射線治療がよいかなどの治療方針は患者様に相談しながら決めています。
手術では目で確認できるがんを切除しますが、目に見えないがん細胞が残っていて再発する恐れもあります。乳がんの乳本温存手術後に放射線を当てることにより、再発の防止に効果を発揮します。当院では、手術後の放射線治療で再発の確率が格段に減少しています。また、肛門に近い直腸がんでは手術前に放射線を当ててがんを小さくして肛門を残すことができるようになることもあります。
進行したがんの痛みの緩和にはオピオイド(モルヒネに代表される薬剤)がよく使われますが、対症療法(鎮痛剤)であり、痛みには効果があるもののがん自体は小さくはなりません。
放射線治療は、痛みの原因であるがんを縮小する原因療法であるため、緩和ケアに効果的です。がんを縮小することで出血や血管の詰まりといったさまざまな症状も改善できます。
様々な専門性を持つ医療スタッフからなる様々なチームが連携して患者様をサポートしています。
入院前から患者様の入院生活や退院後の不安を取り除くため、専門の看護師による問診・面談を行っています。生活面で不安を抱える患者様やご家族には、医療ソーシャルワーカーが問題解決の支援をすることもあります。また、がんと診断されたことにより、精神的に落ち込んでいる患者様に対しては、公認心理師*3が心のケアをしています。
治療においては、各診療科医師、歯科医師、病理医、放射線診断医、薬剤師、看護師など多くの医療スタッフが携わり治療方針を検討します。手術後はリハビリテーション科に引き継ぎ、これまでの生活が取り戻せるようにサポートします。
退院後にも継続してリハビリや介護を必要とする場合は、地域の病院や福祉施設と連携し、患者様が安心して地域に戻れる体制を整えています。
*3 公認心理師とは、心の問題を抱えた人に対して解決に向けた支援をする専門家のこと
希少がんとは、罹患率(発生率)が人口10万人当たり6人未満のがんをさします。患者数が少なく十分な研究が進んでいないため、有効な治療法が確立していない疾患が多く含まれます。当院では希少がんの治療に関して、大学病院やがん専門病院等と連携して診療や支援を行っています。
AYA世代とは、Adolescent&Young Adult(思春期・若年成人)世代の略称で、15歳から39歳までの世代を指します。学生から社会人、子育て世代とライフステージが大きく変化する世代であり、就学、就職、恋愛や結婚、妊娠や出産などAYA世代特有の悩みを抱えています。また、AYA世代がんは極めて稀であることから周りに相談できる人が少なく社会的に孤立してしまう問題もあります。診療自体は、それぞれの疾患の標準治療に準拠した専門的医療が望ましいです。個別の診療科や施設でAYA世代特有の悩みを完結することは困難な場合もあるため、施設内連携や、生殖医療のように特殊技能を有する施設との連携を行いサポートしています。
当院は患者様のQOL(生活の質)を大切に、病気のことだけでなく、精神面や治療と生活の両立に対しても支援しています。
看護師ががんの症状や痛み、気持ちのつらさ、生活での不安などについて、「生活のしやすさの質問票」をもとに聞き取りを行います。
がんと診断されると精神的に落ち込む患者様も多くいます。誰かに話しを聞いてもらいたいと思う患者様もいれば、自分からは話しづらい患者様もいます。当院では、患者様と会話するきっかけとして「生活のしやすさの質問票」を活用し、相談しやすい環境が提供できるように心がけています。
聞き取りによりケアが必要と判断した場合には、院内の各種相談窓口を紹介したり、解決のための情報提供をしたりします。
患者様の病状や気持ちは変化するため入院するとき、治療内容が変わるとき、症状が進行したときなど、状況が変化するタイミングで「生活のしやすさ」について聞き取りをおこなっています。
手術の前には手術担当の看護師が病棟の患者様を訪問し、手術に対する不安を聞いたり、手術室や手術機械の写真をみていただき、安心して手術に臨めるようにしています。また手術に際しての問題がないかを直前に再度確認しています。患者様からも安心して手術を受けられたと感謝のお言葉もいただいています。
当院には、がん看護に関係する専門看護師、認定看護師がいます。
医師と看護師が共同で、医療面と生活面の両面から患者様を支えます。
香川労災病院では、がんの相談窓口も充実しています。
当院の1階の「つなぐステーション」には各種相談窓口がワンフロアに会しており、患者様のお悩みをワンストップで窓口につないでいます。
令和5年(2023年)の当院のがん治療の実績は以下の通り。
院内がん登録数(年間) | 1,254件 |
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悪性腫瘍の手術件数(年間) | 548件 |
がんに関わる化学療法 のべ患者数(年間) | 2,644人 |
放射線治療 のべ患者数(年間) | 243人 |
緩和ケアチームに対する新規診療依頼数(年間) | 213件 |
中讃圏域(2次医療圏)に居住するがん患者診療の割合 | 35.4% |