前立腺がん・精巣がん

前立腺がん

前立腺がんの病態

前立腺がんは、「前立腺」のがんですが、この「前立腺」についてご存知でしょうか?前立腺は、男性だけにある生殖器官の一つです。ちょうど栗の実大の大きさと形をしていて、膀胱の真下に尿道を取り囲むように位置し、後ろの方は直腸に接しています。このため、肛門から指を入れると、直腸ごしに前立腺に触れることができ、前立腺がんの検査法として実施されることがあります。前立腺の後方には左右の精のうがあり、ここから射精管が前立腺の中央部を通って尿道に通じています。

前立腺は、その発生から増殖、成長までのすべての段階で男性ホルモンを必要とする“男性ホルモン依存性”の器官である、ということも大きな特徴です。

前立腺がんの特徴

前立腺がんは文字通り前立腺にできるがんで、高齢の男性に多い病気です。昔に比べて増加しており、社会全体の高齢化、食生活の欧米化などから、今後も増加傾向が続くと予測されています。

また、前立腺がんは他のがんに比べて病気の進行が遅く、何年もかかってゆっくり進行するといった特徴があります。初期のうちは症状がほとんどないことが多いので、早期発見、早期治療がとても大切です。そのためには正しい知識を持つこと、前立腺がんの検診を受けること、この2つが極めて重要になります。

前立腺がんは、欧米では男性のがんの中で大変多いがんとして知られています。アメリカ合衆国では、男性のがんの中で「罹患数」は第1位、死亡数は肺がんに次いで2位と、最も多いがんの一つとなっています。わが国においてはまだそれほど多くはありませんが、泌尿器科で扱う男性のがんの中では、罹患率、死亡率、ともに最も多いのが前立腺がんです。また、将来的には最も増加するがんの一つと考えられており、2020年には肺がんに次いで罹患数の第2位になると予測されています。

どんな患者様に多い?

なぜ、前立腺がんになるのか、その原因や発症メカニズムはまだ解明されていません。しかし、前立腺がんの危険因子(リスクファクター)については、いくつか明らかになっています。

1つは年齢で、前述の通り、前立腺がんは、高齢になるほど発症しやすくなります。

また、欧米での調査で、父親または兄弟に前立腺がんにかかった人がいる場合、本人が前立腺がんになる確率は、そうでない人に比べ2〜3倍になるという報告があり、特定の遺伝子の関与も示唆されています。

人種も、大きな要因の一つです。前立腺がんが多い欧米でも白色人種に比べ黒色人種でより多いとされています。また、アジア人には比較的少ないといわれています。

食生活では、脂肪の多い食事、緑黄色野菜の不足など、“欧米型”の食生活が関与しているとされています。

前立腺がんは人種や地域によって、発症率が異なることが分かっています。オーストラリア・ニュージーランド、ヨーロッパ西部や北部、北米など、いわゆる先進国を中心に罹患率は高く、アジアやアフリカなど発展途上国では低い傾向にあります。

日本人の罹患率も上昇傾向で、欧米に近づきつつあります。このことからも、前立腺がん増加の背景には、欧米型の食生活など、生活環境の変化が関係していることが伺えます。

転移しやすい部位

進行すると、血液やリンパ液を介して骨やリンパ節などに転移するようになります。特に、前立腺がんは骨やリンパ節に転移しやすい特徴があり、がんが骨に転移した場合は、腰痛や四肢痛などがみられるようになります。ほかの転移部位として肺、肝臓などが挙げられます。

予後

偶発がん、限局がん、局所浸潤がん、転移がんの順に生存率が低くなり、早期ほど生存率は高いことが示されています。

診断法

前立腺がんの検査と診断の流れとして、大きくは、スクリーニング検査→確定診断→病期診断という流れになります。

スクリーニングとは、前立腺がんの疑いがある人をふるいわけるための検査をいいます。主な検査には、腫瘍マーカー(PSA値)を調べる血液検査、触診で前立腺の状態をみる直腸診、経直腸的超音波(エコー)検査があります。このうち、1つでも異常が認められた場合は、前立腺組織を採取しがん細胞の有無を確認する前立腺生検が行われます。この検査でがん細胞が確認されれば、前立腺がんの診断が確定されます。

前立腺がんの確定診断が行われたら、MRIやCT、骨シンチグラフィーなどの画像検査を行い、ここで、がんの広がりや転移の有無を確認して、病期を診断します。

どんな症状?

前立腺がんの自覚症状は、病気の進行によって変わってきます。前立腺がんは、ほとんどが尿道から離れた辺縁域(外腺)に発生します。すぐに尿道を圧迫することはないので、早期のうちは自覚症状がありません。しかし、病気が進行し、腫瘍が大きくなり尿道や膀胱を圧迫するようになると、尿が出にくくなったり、排尿時に残尿感、あるいは痛みを感じるなど、前立腺肥大症と同じような排尿障害が起こります。また、尿や精液に血が混じるといった症状が見られることもあります。

さらに、進行すると、血液やリンパ液を介して骨やリンパ節などに転移するようになります。特に、前立腺がんは骨やリンパ節に転移しやすい特徴があり、がんが骨に転移した場合は、腰痛や四肢痛などがみられるようになります。

このように、前立腺がんは、早期のうちは症状に乏しく、自覚症状が出たときにはがんが進行している場合が多いので、男性は50歳を過ぎたら定期的に前立腺がんの検査を受けることが大切です。

前立腺がんの検査

PSA検査(前立腺腫瘍マーカーの測定)

前立腺がんを見つけ出す検査の中で、最も簡便で広く行われているのがPSA検査です。PSA検査では、血液を約1mL採取して、「前立腺特異抗原:prostate specific antigen」と呼ばれる前立腺でつくられるタンパク質の一種の濃度を測定します。PSAは、健康なときも血液中にわずかに存在しますが、前立腺がんを発症すると、大量のPSAが血液中に流れ出し濃度が上昇することから、前立腺がんの腫瘍マーカーとして広く用いられています。前立腺肥大症や前立腺炎でもPSA値が高値となることもあるので、PSA値だけで前立腺がんかどうかを判断することができませんが、前立腺がんを拾いだすスクリーニング検査法としての有用性は高く、前立腺がんの早期発見に大きく貢献しています。

PSA検査の検出精度は大変高いですが、それでもPSAのみでは見逃されてしまうこともあります。直腸診などの検査は、PSA検査を補う関係にあり、これらを組み合わせることで、検出精度はさらに高くなると考えられます。

健常男性に比べて、前立腺肥大症や前立腺がんの患者様では、PSA値が高くなっています。前立腺がんでは、病期が進行するほどPSA値も高くなっており、PSA検査は、がんの進行(病期)の予測にも役立ちます。

ただし、PSA値の分布は幅広く、前立腺がんがかなり進んでいてもPSA値が正常範囲であったり、健康な人でもやや高い値を示したりする例もあります。このように、健康な人と前立腺がんの患者様のPSA値が重なり合ってしまうグレイゾーンの取り扱いの問題などから、PSA検査だけで前立腺がんを診断することはできません。疑わしい場合は、さらに他の検査を追加で行って、診断精度を高めています。

PSA値が高くなるにつれて、前立腺がんが見つかる確率も高くなります。日本人男性のPSA基準値としては、64歳以下の方では3.0ng/mL、65〜69歳の方では3.5ng/mL、70歳以上の方では4.0ng/mLが目安です。この基準値を超えている場合は、前立腺がんの疑いがありますので、医療機関でさらに詳しい検査を受けることが勧められます。

直腸診(触診)

直腸診は、医師が肛門から指を直腸に入れて、直腸の壁ごしに前立腺の状態をチェックする検査です。前立腺の大きさや硬さ、弾性、表面の凹凸、触れると痛みがあるか、などを調べます。がんが進行している場合には、前立腺は硬くなったり表面がざらついていたり、周囲の組織との境界が不明瞭になったりします。触診ということで、抵抗を覚えることもあると思いますが、直腸診は特に前立腺肥大症との鑑別に有用です。

超音波検査

経直腸的超音波(エコー)検査は、肛門から超音波発信機である探触子(プローブ)を入れ、超音波画像を見ながら前立腺の内部の状態を調べる検査法です。

この方法は、前立腺がんがどのように広がっているのか、その様子(浸潤の有無)の確認に用いられています。特に前立腺被膜や精のうへの広がりの様子など、他の検査では診断しにくい部位の診断ができるという特徴があります。

正常な前立腺は左右対称で、周囲との境界もはっきりしていますが、がんになると左右非対称になったり、境界が不明瞭になったりします。

前立腺生検

スクリーニング検査で前立腺がんが疑われた場合は、前立腺がんを確定するために、前立腺生検(バイオプシー)が行われます。前立腺生検では、特殊な針を使って前立腺から直接組織を採取し、それを顕微鏡で観察して、がんがあるか、またあった場合には、その悪性度(グリーソンスコアなど)を確認します。

検査法としては、直腸に探触子(プローブ:超音波装置)を挿入し、前立腺の中の様子を確認しながら、決められた位置に針を刺して前立腺組織を採取します。採取法には、針を直腸から刺し入れる経直腸式と、股の間(肛門と陰のうの間)から刺入する経会陰式があり、前立腺がんの発生しやすい辺縁域を中心に、6箇所以上から組織を採取します。

痛みは少なく、検査自体は15分程度で終わります。外来でもできますが、通常は2泊3日入院して行います。

前立腺生検では、前立腺から直接組織を採取し、がんがあるか、またあった場合にはその悪性度などを確認します。この悪性度は前立腺がんの治療の決定でとても重要な情報となります。

前立腺がんのタイプ、つまり悪性度を示したもので、グリーソン分類と呼ばれています。米国のグリーソン博士によって提唱された分類法で、腺の構造と増殖パターンにより5段階に分けられます。1は正常な腺構造に近く、悪性度の低い(たちの良い)がんで、5が悪性度の高い(たちの悪い)がんです。

実際は、グリーソンスコア(Gleason score:GS)と呼ばれる数値にして使用されます。生検におけるグリーソンスコアは、採取した組織の中で、最も量的に多い組織像と最も悪性度の高い組織像について、その増殖パターンを合計して算出します。グリーソンスコアでは、もっとも悪性度の低い「2」から、もっとも悪性度の高い「10」までの9段階に分類されますが、健康上問題となる前立腺がんは、6~10の5段階であることがほとんどです。

CT検査 MRI検査

生検で前立腺がんの診断が確定したら、がんがどの程度進行しているのかを、CT(コンピューター断層撮影法)やMRI(磁気共鳴画像法)で調べます。これらの検査では、前立腺やその周囲など、体内の様子を画像にして映し出し、がんが前立腺の中のどこまで広がっているか、あるいは周囲の組織に浸潤していないか、リンパ節や離れた臓器に転移していないかなどを調べます。

骨シンチグラフィー

先にも述べた通り、前立腺がんは、骨に転移しやすい性質を持っています。CTやMRIは、骨の検査にはあまり適していないため、骨シンチグラフィーと呼ばれる検査も行われます。この検査では、骨のがんに集まりやすい性質を持つ放射性物質を注射し、3時間ほど待ってから全身の骨を特殊なカメラで撮影します。前立腺がんが骨に転移していれば、そこに放射性物質が集積し黒く映し出されます。この検査で用いられる放射性物質はごく少量ですので、被曝については心配しなくても大丈夫です。

これらの画像検査によって、前立腺がんの浸潤の程度や転移の有無を調べ、病期を診断します。

前立腺がんの治療

前立腺がんはどう治療するの?

前立腺がんには、「手術療法」、「放射線療法」、「内分泌(ホルモン)療法」など、さまざまな治療法があります。これらの治療を単独あるいは組み合わせて行います。

治療法は、がんの進行度(広がり)や悪性度、また、患者様の全身状態、年齢などを考えて、最適な方法を選択することになります。主治医とよく相談の上、納得のいく治療法を選択するようにしましょう。

手術療法 前立腺全摘除術(当院ではロボット手術)
放射線療法 外部照射療法
組織内照射療法
内分泌療法(ホルモン療法) 去勢術(精巣摘除術)
薬物療法
  • LH-RH(GnRH)アゴニスト
  • LH-RH(GnRH)アンタゴニスト
  • 抗男性ホルモン剤
  • 女性ホルモン剤
PSA監視療法 定期的なPSA値の検査で経過観察
化学療法(抗がん剤による治療) 植物アルカロイド、アルキル化剤等
緩和的療法 疼痛対策、脊髄麻痺対策

局所進行性前立腺がんの治療選択

限局性前立腺がんに対する各治療法に関しての評価が定まりつつある一方で、high Gleason score、局所進行性前立腺がんをはじめとするいわゆるhigh risk例の治療選択は容易ではありません。

薬物療法

内分泌療法とは、ホルモンが発育に関わるがんに対して、ホルモンの働きを抑える薬を用いる治療法です。

がんの場合は、主に乳がん、子宮がん、前立腺がんで使われています。前立腺がんの成長に関係している男性ホルモンが作られるのを抑える効果や、ホルモンががんに作用するのを妨げる効果をもつホルモン剤を使っておこなう治療法です。副作用が化学療法剤と比べて少なく、長期に使うことができます。主な副作用は、ほてり、女性化乳房、性腺機能低下、骨粗鬆症などです。ホルモン療法は、内分泌療法と呼ばれることもあります。がんの種類によって治療法は異なりますが、放射線療法などと組み合わせて使用されることもあります。

進行性前立腺がん治療の第一選択は内分泌療法や化学療法です。またPARP阻害薬というBRCA1またはBRCA2遺伝子変異陽性に対する新たな治療法が登場しております。今後の課題として、各患者様において各種治療のうちのどれをいつ選択すべきかという治療の個別化が必要とされています。

精巣腫瘍(精巣がん)

精巣にも悪性腫瘍が発生します。精巣は精子を形成する胚細胞から成るために、悪性であっても医学的には精巣がんと呼ばず、精巣腫瘍といいます。精巣腫瘍の種類には、胚細胞から発生する胚細胞腫瘍、血液疾患である悪性リンパ腫、特殊な悪性腫瘍である肉腫などがあります。
通常は 痛みを伴わないで精巣が腫れてくることで発見されます。

早期診断・早期治療が大事!

年齢的に働き盛りの人が多いこと、陰部であり羞恥心があることなどを理由にかなり進行した状態ではじめて来院されるケースもまれではありません。しかしながら、早期に発見し、早期に治療すれば予後の良い病気ですから、早めに受診されることをお勧めします。精巣腫瘍の7〜10%は停留精巣の既往を持つとされます。停留精巣から精巣腫瘍発生の相対リスクは3〜14倍とされます。

症状

無痛性陰嚢内腫瘤(腫れ、しこり)が典型的な症状ですが、炎症や出血を伴うと痛みを生じることがあります。ゆっくりと大きくなる事が多いです。

精巣腫瘍の診断と治療

精巣腫瘍は触診と超音波検査で診断され、手術により精巣を摘出します。

局所:原発巣

  • 触診(陰嚢を触って診察する)でおおよそ分かります。
  • 超音波エコー検査で陰嚢内精巣部分のしこりを確認します。

全身:転移巣

レントゲン検査(胸部単純)、PET-CTを含めたCTスキャンやMRIなどの画像検査が、肺や腹部リンパ節(後腹膜リンパ節)などの転移巣の診断に有用です。

腫瘍マーカー

精巣腫瘍(胚細胞腫瘍)のタイプによっては血液中の腫瘍マーカーが 上昇することがあり、診断や治療効果の判定に用いられます。血液検査で腫瘍マーカー(hCG、AFP、LDH)を測定します。上記の診察、検査に加え、これらの腫瘍マーカーが高値を示すとほぼ精巣腫瘍という診断がつきます。AFPは卵黄嚢腫瘍、胎児性がん、未熟奇形種で産生されます。hCGは絨毛がんのすべて、胎児性がん、セミノーマの一部で産生されます。LDHは精巣腫瘍以外の悪性腫瘍や様々な病態で異常値となるため診断的特異度は低いですが、腫瘍の活動性を示す良いマーカーとなります。

進行する スピードが早いので、手術が先行されます。摘出された精巣は病理検査によって どのようなタイプの腫瘍かを診断します。リンパ節や肺、その他の臓器に転移している可能性があるので、CT検査などで転移の有無を調べます。以下の病期(ステージ)によって 手術後の治療方針が決定されます。

臨床病期分類(日本泌尿器科学会分類)
ステージ1 腫瘍は精巣のみで転移を認めない。
ステージ2 横隔膜より下のリンパ節に転移がある。
ステージ3 リンパ節以外の臓器に転移を認める。

一般的に転移し易い悪性腫瘍であり、リンパ行性及び血行性転移が主な転移様式です。転移し易い部位には、後腹膜リンパ節、肺、肝臓が挙げられます。又、セミノーマ以外の精巣腫瘍はセミノーマよりも高率に転移を伴います。

組織型

  • セミノーマ(精上皮腫)(35〜50%と最も多い組織型です)
  • 精母細胞性セミノーマ
  • 胎児性がん
  • 卵黄嚢腫瘍
  • 絨毛がん
  • 奇形腫
  • 上記の混合型

治療法

手術療法

  • まず第一に患側の(異常のある方)精巣を精索とともに摘除します。(高位精巣摘除術)
  • 精索とは鼠径部から精巣に続く索条構造で血管、神経、精管などを包んでいます。
  • 腹部リンパ節を切除する手術をすることがあります。(後腹膜リンパ節郭清術)
  • その他の転移した部位のしこりを摘除することがあります。(肺切除、肝切除など)→転移した部分の手術は通常、化学療法の後に行います。

化学療法

肺や腹部リンパ節(後腹膜リンパ節)などの転移巣に対してまず行うのは抗がん剤を用いた化学療法です。1コース3週間で3~4コース行うことが一般的です。合併症(吐き気、脱毛、白血球減少など)や後遺症(精子を作る機能の低下、手足のしびれ)の問題があります。次いで、場合によりその場所を手術的に切除することもあります。

放射線療法

  • ステージI(転移の無いもの)のセミノーマ(精上皮腫)に対して、転移再発を予防する目的で関連するリンパ節に放射線療法を行うことがあります。
  • ステージII(腹部リンパ節転移あり)のセミノーマ(精上皮腫)に対して、転移巣を治療する目的で放射線を関連するリンパ節にあてることがあります。
  • 治療中の合併症:当てている部分の皮膚の発赤や体のだるさなど。
  • 晩期の合併症:(数ヶ月~何年も時間が経ってから起こる後遺症)放射線による神経障害、腸管の炎症、狭窄などの問題があります。

陰茎がん

疫学

陰茎がんは亀頭部や包皮に発生する悪性腫瘍です。先進国では非常に稀とされ、発生頻度は10万人に1人以下といわれています。日本では男性悪性腫瘍の1%以下とされ、60〜80歳の男性に多く見られます。

危険因子としては以下のものが言われています。

  • 生殖器の不衛生
  • 包茎(約10倍のリスク)
  • 喫煙(約3倍のリスク)
  • ヒト・パピローマウィルス(HPV)感染

HPVはヒトにだけ感染する最も小型なDNAウィルスで100種類以上のサブタイプ(遺伝子型)があります。陰茎がんをはじめ子宮頸がん、腟がんなど多くのがんに関与することが知られており、HPV関連がんに見られる最も多いサブタイプは16型、18型といわれています。

症状

原発病変は浅いびらん、もしくは周囲が隆起した浅い潰瘍(かいよう)を示すことが多く、痛みなどは通常ありません。包茎が病変を隠し症状がわかりにくい場合が有るため注意が必要です。

また、羞恥心と性感染症ではないかといううしろめたさから受診をためらうことが多いことも特徴で注意が必要です。

診断

診察では視診が最も重要です。表在性でカリフラワー状の腫瘤(できもの)が特徴的です。多くは亀頭部、包皮に認めます。

梅毒や尖圭コンジローマなどの良性の腫瘤や皮膚の悪性腫瘍(乳房外パジェット病、悪性黒色腫、ボーエン病など)との鑑別が必要になります。

診断を確定するためには、組織を一部採取して検査する生検検査が必要になります。

血液検査では特徴的な所見はありませんが、進行がんでは腫瘍マーカーのSCCが高値となることもあります。

残念ながら陰茎がんと診断された場合、通常のレントゲン検査、CT検査などによりリンパ節転移や遠隔転移の有無を調べて病期(ステージ)診断を行います。

陰茎がんは鼡径部(足の付け根)のリンパ節に転移しやすいといわれており、リンパ節転移の有無は大きく予後に関係します。

初診時にリンパ節の腫れを約30〜60%の患者様に認めると報告されますが、その約半数は原発巣の感染によるといわれています。そのため、鼡径部のリンパ節が腫れている方には、感染による腫れかどうか、しばらく抗生物質を内服していただくことで診断することがあります。

病期分類(Jackson分類)

I期 がんが亀頭部のみ、あるいは陰茎の皮膚のみに限局している
II期 がんが陰茎海綿体に浸潤しているが、転移がない
III期 鼠径部のリンパ節に転移があるが、遠隔転移はなく根治手術可能
IV期 鼠径部を越えて骨盤内のリンパ節に転移がある、あるいは他の臓器に転移があり根治手術不能

臨床病期分類(TNM2009)

原発腫瘍(T)

TX 原発腫瘍の評価が不可能
T0 原発腫瘍をみとめない
Tis 上皮内がん
Ta 疣贅性非浸潤がん
T1 上皮下結合組織に浸潤する腫瘍
T1a: 脈管浸潤がなくグレード1-2
T1b: 脈管浸潤があるかあるいはグレード3-4
T2 尿道海綿体または陰茎海綿体に浸潤する腫瘍
T3 尿道への浸潤
T4 その他隣接臓器への浸潤

リンパ節転移(N)

NX 所属リンパ節の評価が不可能
N0 触知可能なまたは肉眼的に腫大した鼠径リンパ節なし
N1 触知可能で可動性のある片側の鼠径リンパ節腫大
N2 触知可能で可動性のある多発または両側の鼠径リンパ節腫大
N3 触知可能な片側または両側の可動性の無い鼠径リンパ節腫瘤または骨盤リンパ節腫大

遠隔転移(M)

M0 遠隔転移を認めない
M1 遠隔転移を認める(小骨盤外へのリンパ節転移も含む)

治療方法

治療には大きく分けて手術療法、放射線治療、進行がんに対する化学療法(抗がん剤治療)がありますが、主体は手術による切除です。

手術療法

Jackson分類I,II,III期までが適応となります。陰茎を温存し病変部のみを治療する陰茎温存療法と、腫瘍から2cm以上の正常組織をつけて陰茎を切除する陰茎切断術に分けられます。

陰茎温存療法にはレーザー治療や腫瘍の局所切除があります。以前は原則的に陰茎切断を行っていましたが、欧米のガイドラインでは陰茎温存の適応となる範囲が拡大されつつあります。最近のEAU(ヨーロッパ泌尿器科学会)のガイドラインでは一部の亀頭部に限局するT2まで適応に含まれています。

T2以上、T1b(グレード3以上)では陰茎切断術を検討します。病変部から2cm以上離れて陰茎を切断するので、部分切断であっても陰茎は短縮します。また、病変の部位、浸潤度によっては陰茎全切断が必要になります。その場合、尿の出口が会陰部に変更されるため、座位での排尿が必要になります。

また、陰茎がんでは原発巣に対する手術以外にリンパ郭清が必要となります。リンパ節腫大を認めた場合、まず4週間抗生剤投与を行い、その後リンパ節を再評価します。抗生剤投与にもかかわらず、リンパ節腫大が改善しない場合に、リンパ郭清をします。また、進行がんの方やリスクの高い方はリンパ節腫大の有無にかかわらず両側鼠径部リンパ郭清を行います。その結果により、必要なら骨盤内リンパ郭清も施行します。

放射線療法

放射線療法は初期の非常に限られた状態の腫瘍が適応になります。

EAU(ヨーロッパ泌尿器科学会)のガイドラインでは亀頭部に限局するT1b(グレード3)およびT2までの4cm未満の病変に対して放射線治療が適応とされています。国内では体外照射が行われますが、欧米では小線源永久挿入も行われています。放射線療法は優れた治療成績が報告される一方で局所再発率は手術療法より高いと報告され、注意が必要です。

放射線療法の合併症としては尿道狭窄(20〜35%)、亀頭部壊死(10〜20%)、遅発性の白膜繊維化などがあります。

化学療法

上皮内がんの場合、5-フルオロウラシル(5-FU)軟膏の塗布により効果が得られます。欧米では尖圭コンジローマ治療薬であるイミキモドクリームも用いられています。

進行がん、転移がんにはブレオマイシン(BLM)、メソトレキセート(MTX)、シスプラチン(CDDP)による多剤併用の化学療法がよく行われますが、多施設共同研究により有効率32.5%と報告されており、また副作用の強い治療といえます。その他、5-FU、シスプラチンによる併用療法や、近年ではタキサン系薬剤の有効性が報告されていますが、症例数が少なくいずれもランダム化比較試験の結果が無いため多剤併用療法の有効性が明らかとはいえません。

治療予後

陰茎がんはもともとまれな疾患であり、なかなかまとまった治療成績は出ていません。がんが限局性であるI・II期の場合、5年生存率は90%、III期では30〜50%といわれています。IV期では非常に厳しいといわざるを得ません。

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