脊椎・脊髄外科の特徴

安全で体の負担の少ない治療を心がけています

お困りの症状(痛み、しびれ、動かしにくさなど)と診察所見、各種画像検査(CT、MRIなど)から診断を確定します。病態がはっきりしない場合には、筋電図検査や神経内科疾患の精査などを行います。脊椎・脊髄疾患の大多数は保存的治療で症状が軽減することが知られており、まずは内服薬による症状軽減を目指します。当院では麻酔科ペインクリニックと連携しており、専門家によるブロック治療を行うことも可能です。内服やブロックによる保存加療にも関わらず症状が軽快しない場合、力が入りにくくなっている場合、膀胱直腸障害(おしっこが出にくい、肛門周囲の感覚がおかしい)が出現してきた場合などには手術が必要となります。同じ病名・症状でも患者様ごとに病態が異なりますので、一人一人に最適な手術方法を選択しています。低侵襲で体の負担が少ない手術を行なっています。

内視鏡・顕微鏡を使用した低侵襲手術

適応となる疾患:頚椎・腰椎変性疾患(ヘルニア、脊柱管狭窄など)

腰部に約2cmの皮膚切開を作成して内視鏡でヘルニア摘出を行います。術翌日から歩行可能で入院期間は約1週間です。術後疼痛も少なく入院期間の短縮、早期社会復帰が可能となります。腰部脊柱管狭窄症なども病態によっては内視鏡手術で対応可能です。詳細は担当医にご相談ください。

最小侵襲脊椎安定術 MISt(ミスト)

適応となる疾患:腰椎変性疾患、脊椎外傷、転移性骨腫瘍、化膿性脊椎炎、脊柱変形

ミストとは、脊椎不安定性や脊椎変形によるインバランスの病態に対して、より低侵襲に固定術や制動術を達成することで脊椎の安定化を図るという新たな概念のもとに生まれた手技の総称です。

経皮的に脊椎にスクリューを挿入する手術手技・器械の進歩、開窓器など手術周辺機器の進歩により、手術でアプローチする組織(筋肉など)への侵襲を少なくすることが可能となりました。従来の手術法と比較して、術後の痛みが少なく、出血量が少なく、入院期間の短縮や、早期社会復帰が報告されています。代表的手技のうち当院で行なっている手術として、最小侵襲腰椎固定術(MIS-PLIF/TLIF)、経皮的脊椎固定用インストゥルメントによる多椎間固定術(MIS-long fixation)、最小侵襲胸腰椎側方固定術(XLIF/OLIF)、 経皮的椎体形成術(BKP)、最小侵襲腰仙椎腸骨固定術(S2AIなど)などがあります。

頸部痛、肩こり

平成25年厚生労働省報告国民生活基礎調査の概況

医療機関を受診する原因として、女性では1位、男性では腰痛に次いて2位となっています

図24 性別にみた有訴者率の上位5症状(複数回答)のグラフ

どんな病気が含まれているのか?

その原因には様々なものがあり、年齢によっても原因が異なってきます。女性の場合はなで肩(首が長い)の人に多く、生活習慣、作業姿勢や環境などが関係しています。

頚椎椎間板ヘルニア、頚椎症性脊髄症、頚椎後縦靱帯骨化症などの疾患が原因となっていることがあります。手足のしびれや痛みが徐々に増強したり、手の使いにくさ(巧緻運動障害)、歩きにくさ(歩行障害)などを自覚した場合には整形外科専門医を受診し、正しい診断に基づいた適切な治療を受けることが大切です。

(長屋郁郎監修:整形外科疾患病態説明アトラスより引用)

疾患の説明

頚椎椎間板ヘルニア

図:頚椎MRI 椎間板が後方に突出して脊髄を圧迫している椎間板はブロック状の椎骨と椎骨の間に存在し、脊柱に可動性を持たせながらクッションとしての役割も担っています。椎間板は中央の髄核と外側の線維輪から構成されています。髄核は水分を多く含むゲル状の物質からなり、線維輪は丈夫なコラーゲン線維からなるシートが層状に重なった構造をとっており、中央の髄核を取り囲んでいます。椎間板は常に力学的負荷にさらされていることから、10代後半から変性(老化)が始まり、髄核の水分含有量の減少や線維輪に小さな断裂や亀裂が生じます。その亀裂から髄核が脱出した状態が椎間板ヘルニアです(図)。

頚椎椎間板ヘルニアは頚椎の疾患の中で頻度の高い病態の一つであり、中年以降に多くみられます。症状はヘルニアの突出方向によって異なります。一般的には左右どちらかに偏って突出することが多く、脊髄から分岐した片側の神経根(神経の枝)を圧迫することにより、片側の頸部から肩および肩甲骨・腕などの痛みやしびれを生じ、筋力低下を呈することもあります。一方、中央に大きく突出した場合には脊髄の本幹を圧迫することにより、手指の細かな運動がしづらい、歩行障害や膀胱直腸障害(頻尿、尿閉、尿失禁など)などの症状が出現します。

治療は保存的な治療が中心ですが、脊髄や神経根の圧迫による神経障害が出現した場合には早期に手術を要する場合もあります。神経障害を長期間放置した場合には回復が困難になってしまうこともありますので、上記の様な症状を自覚した場合には脊椎脊髄病専門医の受診をお勧めします。

当院での手術方法
  • 顕微鏡を用いて、ヘルニア摘出術

を行っています。
病態に応じて

  • 前方から行う手術 ー前方除圧固定術ー
  • 後方から行う手術 ー後方椎間孔拡大術ー

を行っています。

入院期間 約7〜10日間
仕事復帰の目安 デスクワーク(約1ヶ月)、肉体労働(約2ヶ月)

(術前の症状の重症度、術後経過によって個人差あり)

頚椎症性脊髄症

頚の背骨の間にある椎間板という軟骨が、加齢に伴い水分が減少して高さを減じ、それに伴い骨棘(こつきょく)と呼ばれる骨の棘が増生し、神経を刺激するために、頚が痛くなる状態を頚椎症と言います。この場合、頸部痛だけでなくうなじ(項部)や肩甲部にも鈍い痛みがでることがありますが、多くの場合は薬物療法、温熱療法や軽い運動療法で様子を見れば十分です。しかし、この状態が進行して骨棘が手にいく神経の枝を圧迫すると、手の痛み、シビレ、運動麻痺が生じ、この状態を頚椎症性神経根症と呼びます。さらに狭窄が進行して脊髄という神経の幹が強く圧迫されるようになると、手の症状だけではなく、両手足のシビレや痛み、運動麻痺、さらには尿や便の排泄障害(膀胱排尿障害)がでてきます。この状態を頚髄症(頚椎症性脊髄症)といいます。頚の症状だけでなく、手足や尿・便の症状が出てきた場合は、脊椎脊髄病専門医の診察が必要になります。骨棘の発生部位やその大きさをレントゲン像で調べ、脊髄や神経症状の程度と脊髄変形をMRIなどで検査する必要があります。

軽度のシビレ、感覚障害や痛みならば薬物療法などで様子を診ることもありますが、その症状がいっこうに良くならず加えて運動麻痺や筋力低下がでてくると手術が必要です。手術を含めた治療法に関しては、できれば脊椎脊髄病専門の整形外科医(脊椎脊髄病学会外科指導医)を受診することをお勧めします。手術は前方法(前方除圧固定術)と後方法(脊柱管拡大術)に大別されますが、何れの方法でも入院は10日~3週程で技術的にもほぼ確立されたものになっています。

当院での手術方法
  • 後方から圧迫をとる手術 ー頚椎椎弓形成術ー
入院期間 約10〜14日間
仕事復帰の目安 デスクワーク(約1ヶ月)、肉体労働(約2〜3ヶ月)

(術前の症状の重症度、術後経過によって個人差あり)

頚椎後縦靱帯骨化症

頚椎には骨を上下方向に連結する靭帯がいくつかあり、それらの役割は頚の骨を正常な位置に保持するだけでなく、頚の異常な動きを制限して脊髄を保護することです。頚椎の椎体の前面、後面にはそれぞれ前縦靱帯と後縦靱帯があります。頚椎後縦靭帯骨化症とは脊髄に接している後縦靱帯が骨化して、脊髄を圧迫する病気です。欧米人に比較して日本人に比較的多く、その頻度は約3%とされています。また40~50歳台の男性に多く、糖尿病との関連が指摘されています。原因については遺伝子レベルでの研究が行われていますが、はっきりした結論は出ていません。診断は頚椎の単純X線写真とCTで行いますが、脊髄の圧迫の程度をみるにはMRI検査が必要です。進行すると脊髄圧迫による頸部や肩の痛み、手足のしびれ、手指の運動障害、歩行障害、膀胱直腸障害などを生じます。

手足のしびれのみで症状が軽い場合は、装具をつけるなどして安静を保ち、薬物療法などの保存療法を行います。手指の運動障害(お箸が十分に使えないなど)や歩行障害(階段で手すりが必要になってきたなど)が出てきた場合には、手術が必要となる可能性が高いので、日本脊椎脊髄病学会認定脊椎脊髄外科指導医への受診を勧めします。手術は前方から骨化を取り除き、骨を移植して固定する方法(前方固定術)と、後方から椎弓を形成して脊髄の圧迫を解除する方法(椎弓形成術、脊柱管拡大術)があります。また症状がないか軽くても、転倒などの怪我で脊髄麻痺を生じることがあるので注意が必要です。なお厚生労働省特定疾患として認められており、医療費の公費負担を受けることができる場合がありますので自治体や医療機関にお尋ねください。

当院での手術方法

病態に応じて

  • 後方から行う手術 ー頚椎椎弓形成術、頚椎後方除圧固定術ー
  • 前方から行う手術 ー前方除圧固定術ー
入院期間 約10〜14日間
仕事復帰の目安 デスクワーク(約1ヶ月)、肉体労働(約2〜3ヶ月)

(術前の症状の重症度、術後経過によって個人差あり)

注)頚椎の変形がある場合には、インプラントを使用して矯正固定術が必要となる場合があります。詳細は担当医より説明いたします。

腰痛

平成25年厚生労働省報告国民生活基礎調査の概況

医療機関を受診する原因として、男性では1位、女性では肩こりに次いて2位となっています

どんな病気が含まれているのか?

成長に伴って起こるもの(腰椎分離症)、加齢により生じるもの(腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、腰椎すべり症)などが あります。生活習慣、作業姿勢や環境なども関係します。

特に安静にしていても痛みが軽くならない、次第に悪化する、発熱している、下肢がしびれたり力が入らない、尿もれがするなどの症状を伴っている場合には、放置したり自分で管理することは禁物で、すみやかに整形外科専門医(脊椎脊髄病専門医)を受診することが必要です。(外傷、感染、腫瘍などの可能性あり)

また、血管の病気(解離性大動脈瘤)、泌尿器科の病気(尿管結石)、婦人科の病気(子宮内膜症)、消化器系の病気など腰以外に由来する症状のこともあります。変形性股関節症が隠れていたり、精神的なストレス、心理的な原因による場合も知られています。

疾患の説明

腰椎椎間板ヘルニア

椎間板は、背骨(脊柱)を構成する椎骨と椎骨の間に存在し、背骨に加わる衝撃を緩和するクッションの役割を担っています。椎間板は中心部にゼリー状の髄核と呼ばれる柔らかい組織がありその周囲の線維輪と呼ばれる丈夫な外層とで構成されています。髄核は子供ではゼリー状ですが、年齢とともにみずみずしさがなくなっていきます。この椎間板に強い圧力が加ったり、線維輪の弾力性が低下すると、亀裂が生じ、椎間板の内容物が押し出され突出します。これを椎間板ヘルニアと呼びます(図)。突出した椎間板が神経を押さえると下肢に痛みが生じることがあります。症状は、急性の激しい腰・下肢痛です。症状が進行すると下肢の力が入りにくくなり、蹴まづきやすいなどの運動障害が起こります。また、稀ではありますが、馬尾と呼ばれる腰椎部の神経が、ヘルニアにより強く圧迫され傷つくと排尿や排便の障害を生じることがあります。 痛みやしびれなどの症状は、腰の前屈動作(前かがみ)や椅子に座った時に強くなることがあります。診察では、あお向けに寝て膝を伸ばした状態で片方ずつ足を持ち上げていく下肢伸展挙上テストで下肢に走る痛みが誘発されます。レントゲン検査では椎間板や神経の描出が困難なためMRIによる検査が必要です(図)。

多くの場合は保存的治療で軽快します。内服薬の調整で疼痛が治らない場合、当院では麻酔科ペインクリニックと連携しておりますので、専門家によるブロック注射を行うことも可能です。適切な治療にも関わらず下肢の痛みが治らない場合、下肢の麻痺が進行する場合や膀胱直腸障害がでてくるような場合には、手術加療が必要となります。

当院での手術方法
  • 内視鏡もしくは顕微鏡を用いてヘルニア摘出術

を行っています。

入院期間 約7〜10日間
仕事復帰の目安 デスクワーク(約1ヶ月)、肉体労働(約2ヶ月)

(術前の症状の重症度、術後経過によって個人差あり)

再発のリスク

手術では神経を圧迫している椎間板を摘出することにより症状の軽減を図ります。もともと傷んでいる椎間板変性はそのまま残存します。術後、前かがみで重たいものを下げたりすると再発しやすく注意が必要です。

腰部脊柱管狭窄症

背骨には神経の通り道である脊柱管と呼ばれる孔があります。長い年月の間、体を支え続けていると背骨が変形して脊柱管が狭くなってきます。腰椎部で脊柱管が狭くなった状態を腰部脊柱管狭窄症と呼びます。腰部脊柱管狭窄症は、50歳代以降から徐々に増えてきます。脊柱管が狭くなると、そのなかを走っている神経(馬尾や神経根)が圧迫されて、坐骨神経痛と呼ばれる下肢の神経痛やしびれ、麻痺(脱力)が発生します。時には、両下肢のしびれの他に、股間のほてり、排尿後にまだ尿が完全に出し切れない感じ(残尿感)、便秘などの膀胱・直腸症状が発生します。これらの症状は、主に歩行時により惹起されます。そのため腰部脊柱管狭窄症では、長距離を続けて歩くことができなくなり、歩行と休息を繰りかえす間欠跛行という状態になります。歩くと下肢の痛みやしびれが強くなってくる、あるいは下肢の症状に排尿の異常を伴うような症状があれば腰部脊柱管狭窄症が疑われますので専門医に診て貰った方がよいでしょう。

まずは保存的治療を行います。神経の血行を良くする薬や、各種鎮痛薬で症状の改善を目指します。症状が治らない場合、当院では麻酔科ペインクリニックと連携しておりますので、専門家によるブロック注射を行うことも可能です。両足に症状が出ていたり、安静時に症状がある場合、下肢の麻痺が進行したり、膀胱直腸障害が出てくる場合には改善が少ないことが知られており、手術加療が必要となります。

当院での手術方法

病態に応じて

  • 筋肉を温存する手術法 ー棘突起縦割式椎弓切除術ー
  • 内視鏡を用いた手術法

を行っています。

入院期間 約10〜14日間
仕事復帰の目安 デスクワーク(約1ヶ月)、肉体労働(約2〜3ヶ月)

(術前の症状の重症度、術後経過によって個人差あり)

注)病態によって治療法を選択しています。
詳細は担当医より説明いたしますので、お気軽にお尋ねください。

腰椎変性すべり症

変性すべり症は、腰の骨(腰椎)が前後にずれてしまう病気で、中年以降の女性に好発し、第4番目の腰椎によく認められます。原因は明らかではありませんが、多くは加齢とともに腰椎の椎間板や関節・靭帯がゆるみ、腰椎が不安定性(ぐらつき)をともなってずれるようになり、脊柱管(神経の通り道)が狭窄することで神経が圧迫されて、腰痛や下肢の痛み・しびれが生じます。進行とともに症状は変化し、初めは腰痛が主体ですが、進行すると脊柱管の狭窄による間欠跛行(長い距離を歩くと痛み・しびれが強くなり、しゃがみこむと症状が軽減する)を認めたり、末期になると安静時にも下肢の痛みやしびれが出現するようになります。

治療は保存治療が原則です。腰痛が強い場合は、コルセットを装用し日常生活で腰に負担のかかる動作を避け安静にすることが重要です。消炎鎮痛剤などを内服し、痛みが軽減してきたら腰部のストレッチングや筋力訓練をおこないます。下肢の疼痛やしびれが強い場合は、神経ブロック療法などを試みますが、これらの保存療法で改善の得られない症例では除圧術や脊椎固定術などの手術が必要となることがあります。適切な治療が行われれば、治療後の経過は比較的良好ですので、早めに脊椎脊髄病専門医の診察をおすすめします。

当院での手術方法

病態に応じて低侵襲固定術を行っています。

  • 筋肉を温存する手術法 ーMIS-TLIF, MIS-PLIFー
  • 神経を触らない手術法 ー新しい間接除圧という考え方
入院期間 約10〜14日間
仕事復帰の目安 デスクワーク(約1ヶ月)、肉体労働(約2〜3ヶ月)

(術前の症状の重症度、術後経過によって個人差あり)

注)病態によって治療法を選択しています。
詳細は担当医より説明いたしますので、お気軽にお尋ねください。

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