乳がんとは

乳がんは乳腺を形成する乳管や小葉から発生した悪性腫瘍です。そのほとんどは、乳管由来の乳管がんで、時に小葉由来の小葉がんがみられます。
乳がんも他のがんと同様に増殖し大きくなり、周囲の組織や器官に浸潤し、さらにはリンパ節や他の臓器(骨、肺、肝など)に転移を起こしていきます。手術ないし薬物治療などによって一旦治っているように見えても、がん細胞が潜んでいる場合には再発を起こしてくることがあります。このため、できるだけ早期に発見して治療することが重要です。

乳がんの症状


乳房や腋(わき)の下のしこりや硬結、乳房の大きさや形の変化、乳頭からの分泌物の出現、乳房の皮膚や乳頭の変化(くぼみ、しわ、ひきつれ、乳頭陥没など)がよく見られる症状です。生理周期、妊娠、ホルモン剤や避妊薬の使用により症状の出方も変わりますが、乳がんの早期発見には乳房の自己検診が有益であり、毎月、自己検診を行うよう習慣づける必要があります。もし、何らかの異常に気がつけば、早急に医師の専門的診察をうける必要があります。ただ、最近はMMGによる集団検診も普及し、全く症状もない早期乳がんの発見が増加しています。

乳がんの診断

乳がんの診断は主に下記の手技にて行います。

触診

乳房内のしこりの有無、大きさ、可動性、皮膚の変化、腋の下のリンパ節の腫れなどを調べます。

マンモグラフィー(MMG)

レントゲン検査による乳房検査で、触知が不可能な微細病変(とくに石灰化病変)を描出し、乳がんの早期発見に役立ちます。

超音波検査

超音波の反射(エコー)で乳房内を画像として映し出します。小さな病巣の発見に威力を発揮し、乳房撮影(MMG)とは異なった面からの診断を助けます。

穿刺吸引細胞診

病巣に細い針を刺して、陰圧を加えて細胞集塊を吸引、採取してがん細胞の有無を調べます。超音波ガイド下に行うことが多いです。

針生検

穿刺細胞診より太目の針を用いて組織の一部を採取して病理診断をします。穿刺吸引細胞診で判断つかないような病変、術前化学療法を行う場合などに行います。

ステレオガイド生検

MMGで微細な石灰化病巣が認められ、超音波その他の方法では病巣が判別できない場合に、コンピュータを用いて三次元的にMMG上で場所を同定して病巣を採取して診断します。

外科的生検

がんが非常に疑われるが診断がつかない場合などに、局所麻酔を行い乳房を切開し、しこりの一部(切開生検)または全部(切除生検)を切除して診断をつけます。

MRI検査(MR-マンモグラフィ)

乳がんの拡がりを術前に診断して、手術の方法、切除する範囲を決定します。

CT検査

肺、肝臓、リンパ節にがんが転移しているかどうかを調べます。術後には再発病巣ができていないかどうか診断します。

骨シンチ

乳がんが転移しやすい骨に病変がないか調べる検査法です。

PET検査

全身に乳がんが転移していないかを調べる方法です。この検査はCT検査などの後に精密検査が必要な場合に行います。

乳がんの診断手順

乳がんの病期(ステージ)

乳がんの病期は腫瘍の大きさ、リンパ節転移、他臓器への転移をもとに分けられます。
0期非浸潤がん:乳がんが乳管内または小葉内にとどまり周囲に浸潤していないもの。
Ⅰ 期:腫瘍の大きさが2㎝以下で、わきの下に硬いリンパ節をふれない早期がんです。
II 期:腫瘍が2㎝以上5㎝未満で、わきの下のリンパ節に転移のあるものも含みます。
Ⅲ 期:腫瘍が5㎝以上で、周辺組織への浸潤やリンパ節転移を伴うものもあります。
Ⅳ 期:がんが骨・肺・肝・脳・反対側乳房などに転移している進行がんです。

乳がんの治療法

乳がんの治療は、外科的手術療法、薬剤療法、放射線療法の3つに大きく分かれます。

1) 外科的(手術)療法

乳がん病巣を取り除く方法です。がんの進行具合、性質を見極めて手術のタイミングを図る(薬物療法の前か後か)こともあります。

A) 乳房温存術
がんが比較的限局していて乳房を全て切除せずにがんをすべて取り除けて、かつ、美容的にも満足できる乳房が残すことが可能な方に行います。

B) 乳房切除術
がんが広い範囲に拡がっている方、術後の放射線療法が困難な方が適応になります。

C) センチネルリンパ節生検
腋の下のリンパ節に手術前の検査でがんの転移がないと診断された早期乳がんの方が適応になります。センチネルリンパ節とは乳房から最初にたどり着くリンパ節のことで、そこに転移がなければ、腋のリンパ節をそれ以上とらない方法です。当院では染色法で行っています。

D) 腋窩リンパ節郭清
腋の下のリンパ節に手術前の検査でがんの転移がないと診断された早期乳がんの方が適応になります。センチネルリンパ節とは乳房から最初にたどり着くリンパ節のことで、そこに転移がなければ、腋のリンパ節をそれ以上とらない方法です。当院では染色法で行っています。
E) 乳房再建術
乳房切除が必要な方に、乳房の切除と同時に(1期再建)あるいは後日(2期再建)に乳房を作る手術です。

2) 薬剤療法

A) 内分泌療法
乳がん細胞が女性ホルモンの作用を受けて増殖する性質(レセプター)を持っている場合に適応となり、約70%の乳がんが該当します。閉経前、後で治療法は異なります。現在、手術後5年間服用するのが一般的ですが、再発のリスクが高い場合には、副作用を勘案して10年間服薬することもあります(extended endocrine therapy)。また、最近では手術の前に内分泌薬を内服する術前ホルモン療法も行われるようになってきました。
B) 化学療法
いわゆる抗がん剤を用いて、がん細胞の増殖を止める治療で、作用機序の異なる抗がん剤を組み合わせて、効果の増強と副作用の軽減を図る工夫がなされています。再発のリスクを考慮して、効果的な治療を選択します。腫瘍が大きい場合には、手術前に抗がん剤による治療を行うことも一般的になりつつあります。
C) 分子標的治療
乳がんの増殖や転移に直接関係する分子の働きを阻害する薬剤が分子標的治療剤です。現在、乳がんで使用可能な薬剤はHER2タンパクをターゲットにしたトラスツズマブとラパチニブの2種類ですが、色々な分子標的剤が開発されており、今後導入されると予想されています。

3)放射線治療

高エネルギーの放射線を用いてがんを死滅ないし増殖停止状態にします。温存手術後の乳房に対して、乳房切除後の胸壁・鎖骨の上のリンパ節に対して行います。また、骨転移、脳転移などに転移、再発した場合にも用います。

治療の選択

治療法の選択は、がんの大きさや広がり方、リンパ節転移の状況などに加えて、がんの性質(ホルモン感受性やHER2発現状況、組織学的悪性度など)を総合的に判断して治療戦略を立てます。特に、がんが大きな場合には、手術を先行するか、薬剤治療を先行するかが重要な選択となります。
乳房を温存することへのこだわり、薬物療法に伴う副作用の問題など、患者さんの希望を元に主治医と決定していきます。

治療成績

乳がんは比較的治癒率の高いがんで、術後の10年生存率(全国乳癌患者登録中調査報告2000年)は、0期:95.1%, I期:89.1%, II期:78.6%, IIIa期:58.7%, IIIb期:64.5%で、新薬開発により治療成績も飛躍的によくなってきています。

おわりに

当院では、地域がん拠点病院として、地域住民を乳がんから守るために、検診による早期発見、診断、最新の治療、さらには緩和医療を行っています。また、各種専門医師、薬剤師、技師、看護師などによるチーム医療を行い、偏りがない治療が受けられるように支援しています。
自己判断を行わずに、何か気になる症状などがありましたら遠慮されずに受診されることをお勧めします。